コンビニで昼ごはんを調達してから学校にいくのが健二の日課だ。
 早起きはあまり得意でないから六時前に起きて弁当をつくるなんて無理だし、健二にそこまでのスキルはない。たまご焼きを焦がさないで焼くとかどんな手品。手づくり弁当の内容は想像でしかないが朝から唐揚げをつくるお母さんはふつうにすごいと思う。いったい何時に起きているんだろう。
 籠に昆布と焼きたらこと鶏五目のおにぎりを放りこむ。飲み物は重くなるからあとで。学校の自販機は缶とペットボトルだけじゃなきてパック物も売っているからすごい便利だ。でも種類は少なくて、寒い時期になるとあったかい缶ココアやミルクティーは即時完売になる。
 健二はおにぎり三つの籠をながめて、こんなものかな、と首をかしげる。少し迷ってから真反対の棚に手を伸ばしてメロンパン追加。これは朝ごはん。ほかにも甘いものが欲しくなってデザートコーナーを物色するも目ぼしいものはなく、菓子類のラックにまわる。スナック菓子は見ないでチョコレートとかそのあたり。
 コンビニ事情については佐久間がかなりくわしくて、とくにパックジュースな関してはひと際うるさい。自分も飲むからって健二の好奇心や嗜好に干渉してくるわけだが佐久間だし仕方ないとも思っている。
 ふと目についた新商品のダースを迷って片方だけ、それとなんとなくチュッパチャップスを手づかみで三本。ばらばらと籠で跳ねるコーラとプリンとグレープ。これで合計七六四円。財布にある小銭から飲み物代を抜いた金額とぴったり合致したことにちょっとだけ満足感を得ながら健二はレジの列にならぶ。
 すぐ横の冷蔵棚には首におまけをぶら下げたペットボトルがならんでいて、夏希先輩もこういうの好きなのかな、なんて思った。



 佐久間の朝は余裕をもって基本的に遠まわりだ。
 通う久遠寺高校へは徒歩で行けてしまうが移動の二〇分間すべてが坂道。いくら勾配がゆるかろうとあまり歓迎できたことではないので遅刻しそうなときに自転車でしかその道は利用しない。
 代わりに使うのが駅ナカを通っていく道だ。プラス十分かかるが体感的に平坦。あとコンビニに寄れるのも利点。
 佐久間の鞄には母特製の弁当がはいっているし、最愛のコーヒー牛乳は学校の自販で好きなだけ買える。しかし毎朝の新商品チェックは欠かせない。情報収集はなによりの基本。コンビニの新商品が一週間で入れ替わるのは常識だ。
 らららら、ららん。なんて去年だか一昨年にどこかの動画サイトでリミックスがアップロードされていた入店音をくぐってまずスピードくじの景品をチェック。弁当やパンの棚を見て、期間限定のパックジュースをリサーチ。ここをちゃんと把握しておかないと健二がとんでもないものを買ってくるから要注意だ。バナナティーとか論外すぎる。ペットボトルはスルーして菓子の置いてあるスペースに移ると端から端まで物色する。買わないけど。
 佐久間がおやつを買うのは自分が当番のときとよっぽど食べたいの(裂きいかとかチー鱈とか)があるときだ。気になるのがあっても大抵健二が押さえてくるし、そうじゃないなら明日買えばいいだけだし。
 秋口になると栗系のものが増えてくる。しかし健二はぼそぼそしたものがあまり好きじゃないから望みは薄め。
 明日の菓子はこれだな。佐久間はうなずいてコンビニを出る。おでんや中華まんを仕込むバイトに微妙な目で見られたが気にすることはない。もしかしたら佐久間ではなくてスピードくじの景品になっているキング・カズマのどんぶりを見ていたのかもしれないと考えて、ないないとすぐさま否定した。



 部活を辞めてから夏希はよく寝坊をするようになった。
 部活柄、早起きには自信があったのに。あまり好きではない英語を遅くまでがんばっているせいだろうか。進路については夏休みにはいる直前にあった面談で指定校推薦ということになっているけれどもう少しがんばってみたいと両親と担任に訴えてこうして受験勉強中だ。予備校は、もう九月も末ということで入校を断られてしまったが夏希にはスーパーでハイパーな親戚がついているし、定期考査での天敵である理系科目に関しては健二がいる。これほど心強いことなんてない。
 夏希の夢は敬愛する曾祖母のようになること。だから同じように学校の先生になることを決めた。
 ぱっぱと着替えて朝ごはんを掻きこむと弁当をつかんで自転車に飛び乗る。道着や竹刀がないだけだが負担的にはかなりちがう。これでプラスチックケースの参考書やら赤本やらがなければもっと最高なのだが。
 がしがしと立ち漕ぎになりながら寝る直前までやっていた英語の長文問題を思い出す。数学の、四色なんたらっていうのが解けない話。あまり得意でないことも手伝ってかとにかくつまらなくて、でも数学の話だから健二に会いたくなった。会って、チョコレートとかいっしょに食べて、それからぎゅーって。たぶん勉強がたいへんで放課後に遊びにいけてないからだ。欲求不満でやつかもしれない。
 もし夏希が受験生ではなければ健二にお弁当をつくってあげるなんてことを試みたかもしれない。籠でがたがた揺れるひまわり色の包みを見てふと思う。でも夏希は料理なんて大してできないし、いつもコンビニに弁当な健二に佐久間とあれやこれやおかずをあげるのが好きなので、やっばりこれでいいとペダルを踏んだ。



「よーっす、健二」
「はよ。佐久間」
「おう。おまえ今日なに買ってきた?」
「ちょい待って……」
「ん。……お、夏希先輩だ」
「おはよう健二くん!」
「おはようございます、夏希先輩」
「ちょ、先輩。おれは無視っすか?」
「無視じゃなくて自転車置きにいっただけだろ」
「健二おまえ……いいや。部室行こうぜー」
「あ、うん」





食物連鎖
(みんなでおいしく食べましょう)