※ペチカのガムさん主催字茶で即興。てか書きすぎ……



・吊り下げ

 カズマは頭上を見あげていた。なにをするでもなく、ただ両膝を胸に寄せて抱えた姿勢のまま制止している。
 頭の上では赤いロープでぐるぐる巻きにされた黄色いリスがじたばたとして、カズマには見えない天井から吊るされているせいでぶらぶら揺れていた。小さな足は一生懸命に動くのに垂れ下がった尻尾はずいぶんと重たそうだ。手を伸ばせば触れそうな位置にあるそれを目で追いかけながらカズマは耳をふるわせた。
「カズマさーん、下ろしてぇええ」
 焦っているのがわかりやすい汗のテクスチャを飛ばしながらわたわたとケンジがもがく。吊られているからまるで振り子のように尻尾が行ったり来たりして、ああ触りたいなと思う。きっとやわらかい。
「カズマさんってば!」
 涙混じりの声がカズマを呼ぶ。もっと呼んでくれないかな。笑っているのもかわいいけれど泣いてるのもかわいい。どっちもかわいいなんてすごい得だ。もっと聞きたい。自分で泣かせるのは可哀想だから、でも今ならだれにも怒られない。うん、だいじょうぶ。
 揺れる尻尾を追いかけながら膝を抱えて座ったままカズマは考える。こういうときはなんて言うんだっけ。佳主馬はなんて言ってただろう。ちょっとだけ目を閉じて思い出してみる。なんだっけ、なんだっけ。
「おねがいします〜!」
 あ、そうだ。カズマはぱちりと目を開けて、少しだけ首を伸ばして尻尾でなくケンジの顔を見た。思ったとおりの涙目。かわいい。もっと呼んでほしい。自然と耳がそよいだ。
「言い方がダメ」




・キレデレ佳主馬 vs ヤンデレ健二 de ボコり愛

 突き出した拳は相手の鼻っ柱に当たってにぶい音がした。ものすごく痛い音。実際に殴った右手がじんじんする。
 床をすべるように倒れこんだ健二がゆっくりをからだを起こす。微妙に鼻のあたりが赤くなっていて、あと、はじめて会った夏のときみたいに血が垂れていた。にぎった拳がやたら熱い。健二が流す血にわけもなく目も熱くなってきてじんじんする。視界も潤んできて佳主馬はぎゅっと目をつぶった。痛そう。血が出て、きっと痛い。
「なに、泣いてるの」
 健二の声。いつもと同じやさしいそれに目もとをぬぐう。動かしたら骨のあたりがひどく痛んだ。
 倒れてからだを起こした体勢のまま健二は手の甲で鼻血をぬぐった。それほど出血が多くなかったのか鼻の下がうっすらと赤くなるくらいだ。
「だって……!」
「だって、じゃないよ。きみが殴りたかったんだろう」
 佳主馬を見て、健二が不思議そうに首をかしげる。赤くこすれた鼻血の跡。だんだんと変色していく肌にまた涙が溢れそうになる。ああもう、ああもう! なんでこの人はだまってくれないんだなんでだまって佳主馬を見てくれないんだろう!
 さも平然としている健二のせいで頭に血がのぼる。耳の奥でごうってなにかが鳴って、佳主馬は痛む右手をもう一度振りかぶった。