市販のホットケーキミックスを牛乳で解いてたまごを落として混ぜたものをフライパンで焼く。佳主馬にとってホットケーキなんてその程度の認識でしかなかったが、実際につくってみるとこれが案外むずかしい。箱の写真のように厚くはならないし、きつね色になるどころか白っぽく乾いたのにまるい線が何重にもなってついている。たとえるならコンパスで円を描こうとして何度も失敗したみたいな。けれどそれならまだいいほうで、最後に焼いたものなんてほとんどが真っ黒になってしまった。食えるのか、これ。
 それなのに。
「佳主馬兄ぃのホットケーキ、おいしいです……」
 これがいいとかたくなに言い張って、真っ黒なそれを口いっぱいに頬張って笑う子どもはなんなのだろうか。
 もとはと言えば朝も昼もあまり食べなかった健二がおやつ時に腹を鳴らしたことが原因で、しかしなにを遠慮してか腹を押さえて照れている健二を見かねてつくったこともないホットケーキを焼くことにしたのだ。
 この家は子どもが多いからホットケーキミックスなどの類が常備されているのは知っていたが十七にもなって焼くのははじめてで。そもそも台所自体にあまり立たない佳主馬は無駄に緊張した。なにより引っくりかえすたびに健二が歓声をあげた。
 焼きあがった三枚はうすっぺらくて焦げていてお世辞にも美味そうとは言えない出来で。偶然見つけた蜂蜜をかけたせいでさらにグロい見た目のそれなのに健二はうれしそうに食べて笑うので。
「……次はもっとうまく焼くから。期待してて」
「はい!」
 たまには料理もいいかな、と。今晩にでも料理関連のコミュニティに降りてみようと健二のまるい頭をひと撫でして、佳主馬はエプロンを椅子の背にかけた。





うちでのご飯に気をつけて
お題「年齢逆転」「ホットケーキ」