窓のすぐ近く、青々した葉をいっぱいにした大木の太い枝にファルコが所在なさげにたたずんでいた。年を負うごとに大きくなる鳥はその翼を広げれば子どもなど楽々さらえてしまう(そう事件が過去にあったとかなかったとか)。黄色い目、鉤状のくちばし。猛禽類の代名詞とも呼べるそれらを備えた顔は凛々しくも見慣れればなかなか愛嬌がある。しかし普段であれば獲物を狙う際の鋭さはなりを潜め、今はどこか気落ちしているようにも見えた。擬人法を使うのであればさびしそう、というのが的確だろう。 綱吉専用のワークデスクのすぐそばにしつえられたロウテーブルには茶器が盆に乗って置かれている。もうすぐ彼(彼女かもしれない)の主人が来るのだ。飛行機で海を渡って。 アルコバレーノの呪いを冠す彼らはここ数年異常な早さで成長していた。それが成長なのか巻き戻しなのか呪いについて明るくない綱吉に判別はつかないが、ともかく彼らは赤ん坊から大人へと変化している。手足が延び、筋肉がつき、丸みを帯びた頬の肉が削げる。そのせいで男女の差は明確になったけれど、彼らには各々で特化している能力がちがうのだからアルコバレーノ同士の関係にさしたる問題はない。 変わったのはおのれの相棒とのつきあいだ。 コロネロはアルコバレーノのだれよりも背が高い。目覚ましいほどの成長に綱吉がなかば呆れを覚えたくらいだ。彼は軍人という自分に適した身体を得たがしかし代わりに翼を失った。 赤ん坊ならばその鉤爪で優々と海を渡れたファルコはもはや無力だ。 はじめて空港でコロネロを迎えたとき、綱吉はようやく現実に触れた。 あれほど赤ん坊の身体を疎んでいたのに、彼は代償に翼をもがれてしまった。いつだって背中にあった翼では飛ぶことが叶わず、彼はただ滑走路を走っていく。 「ツナ!」 乱暴に扉が開けられ、低くてでも子どもっぽさがにじんだ声に叫ばれて綱吉はまたたく。 気がつけば鷹は空に溶けていた。
少年ロスト |