黒い髪、黒い目玉、くるんと巻いたもみあげが特徴的なバスキアの黒いティーシャツをワンピースみたいにしている少年は少年らしいキーの高い声を発した。
「にゃあ」
「や、猫あつかいしたのおれだけどちがうから」
「に」
「あのね……」
 聞き入れられず、弱って頭をがしゃがしゃかき乱す。どうしたものだろうか。首をひねると同時にきゅうとかわいらしい音がして、見れば少年はわずかに顔を赤くしておなかをぎゅうぎゅう押さえている。
「あー……そうだよね。気が利かなくてごめんな」
 謝りながらひょいと少年を片腕で抱きあげる。おどろいてじたばた暴れるのを抑えながらタオル地のパーカを羽織らせ、ズボンのポケットに財布をねじこんで鍵をにぎる。携帯は電池ないから放置決定。むしろ昨夜の雨で使いものにならない気がする。修理のためにショップに持っていくのがめんどう。
 なにやら探している様子の少年の頭を何度か撫でて落ち着かせる。これでも子どものあつかいは得意だ。かかえている腕がすっかりみみず腫れになっているのは地味に痛いが無視。
「さ、朝飯食いに行こう」
 あんなに悲惨な冷蔵庫では食事など期待できるはずがない。それなら外に行ったほうが早いし美味いし楽だ。
 最高なことにあの大雨が嘘みたいにどこぞへ流れて今日は朝からどっぴいかん。
 そう言えば今何時。
「まあいいや」
 つぶやき、ドアに鍵をかける。
 チョイスは徒歩十分内の位置にあるファミレス。二十四時間営業なだけにリーズナブルでメニューも盛り具合も豊富で気に入っている。見た感じ偏食がはげしそうだが最悪アイスとかパンケーキくらいなら文句を言いながら(鳴きながら?)もそもそ食べるんじゃないかの期待がある。むしろ食べてもらえないと自炊の自信がないからひどい浪費をしそうだ。つうか食わせる。
 がらがらの店内の端にある四人席に案内され、向かい合って座る。お子さま用ではないメニューを小さな手で支えているせいでこちらからは少年が見えない。しかしテーブルの下で短い足がぷらぷら揺れているのを見るかぎり機嫌はわるくないらしい。
 ファミレスの朝メニューなんてとうの昔に制覇していたから無難なところでフランスパンのサンドイッチ、アメリカンコーヒー。
「どれにするの」
「にょ」
 いつから少年がでじ子になったかはさておいて指差されたのはきつね色のパンケーキ。アイスクリームかバターか選べて、メイプルシロップをたっぷりかけて召しあがれ。個人的には生クリームとジャムが絶妙なワッフルがおすすめだがあれはデザートメニューで十時から。
 暇そうにしていたバイトくんに声をかけてオーダー。あくびまじりの復唱はどうかと思った。





グッモーニン
(それにしてもむかつくくらい清々しい朝だ)