なんでこんなに好きなんだろうなー。 腕のなかにすっぽりナイスな感じで収まっている綱吉のふわふわした頭を見下ろしながらそう思う。坊主も獄寺も今はいなくて、綱吉の部屋でふたりきり。だからってなにがあるわけでもない。ただ夏休みの課題も今日の分だけで明日の分とかそのずっと先の分をやるなんて甲斐性も計画性も持ち合わせてないからふたりそろってだらだらしているだけだ。エアコンの利きすぎた部屋はすこし寒くて、でも止めるとやっぱり暑いからくっついてる。本当にそれだけだ。 (しあわせ、っていうんだろうなー) あぐらの上にちょこんと三角座りになっている綱吉の視線のさきはこないだ出たばっかりの新刊。今日みたいなひまなときでもないと読めないからって、さっきからぺらぺらとページを黙ってめくっている。あとで貸してもらうつもり。 エアコンの音とか、外の音とか。あと綱吉、自分。それくらいしか音がないとまるでふたりだけの世界だ。なんてせまい世界。なんてすばらしきこの世界。 「やまもと?」 現実に(いいや、これは最初から現実だった。夢でたまるか)戻したのは綱吉だ。ちいさくて(でも強い)綱吉がやっぱりふわふわした声で首をかしげる。大きな薄茶の目がきょとりと動いた。 「山本、たいくつ?」 「全然」 「そ? あとちょっとだから待っててな」 そしてそのまま漫画へ逆もどり。ちょっとだけせつなくなって、ぎゅうと腕にちからをこめてみた。 「なんだよ、山本。暑いってば」 「んー」 「山本!」 怒鳴る綱吉なんておかまいなしにぎゅうぎゅう抱きしめる。ばしばし腕をたたかれたけどちっとも痛くない。坊主がいれば無言で目ぎらぎらさせて鉛玉、獄寺が見たら頭の悪い怒声とセットでダイナマイトが飛んでくるにちがいない。だけど今はふたりきりだ。いないほうが悪い。世の中やったもん勝ち、勝ったやつが勝ちだ。野球でいうなら打って走ったやつがヒーローだ。 それなら思いっきりでかいの打ってやる。 「しあわせだなー」 なんとなく言ってみた。そしたら綱吉が真っ赤になって、それがなんかかわいかった。
しあわせひとかかえ |