偶然ひろったボール。なつかしさのあまりのそのまま持ってきてしまったそれをぽーんぽーんと垂直投げあげ。足はのんびりのんびり動かしてちゃんと手元に戻ってくるように。キャッチするたびに重たい。手のひらが鳴る。グローブとは全然ちがう音だ。もう何年も聞いていない。バットなんて触ってすらいない。あんなに好きだった野球はいつしか観るものになっていた。他人事あつかい。あんなに好きだったのに。野球ができないからって死のうと思ったこともあったのに。
「あ、そうか」
 ちがった。全然ちがった。
 たしかに野球は好きだったけどそれは好きなだけでたぶん彼に出会うためだったんだ。彼を見つけるずっと前から彼に見つけてもらうために野球をはじめたのだ。鳥は親とたまごのどっちが先かとかそんな感じの無理難題。だけどこれはこれで解決。ぜんぶはぜんぶ彼のため。
 放りなげたボールは空に吸いこまれるようにまっすぐ空へ。だけど拒絶されて直下。ぱし、軽くて重たい音を握りしめる。立ちどまる。肩のちからをぬいて、投げる瞬間にだけをちからをこめる。理屈なんていらない。肩をつくるのなんて一瞬だ。
 土で汚れてどろどろになったボールがきれいな放物線を描いて飛んでいく。マイナスの二次関数グラフ。なんでかずっと理解できなかった(しようともしなかった)。勉強はきらいじゃなかったけど彼と一緒にいるのが楽しかったから勉強はできなかった。できないでいいと思った。
 ボールはもう帰ってこない。





輪廻する三回転半
(ちょっくらアメリカまで野球観戦にでも)