「それで、せんぱいはいったいなにをしてくれちゃったんですか」 おれのためになんて笑えませんよ愚策にもなりゃしない。なつかしい格好をした小さな後輩があきれたように腕を組んで枕元に立っていた。おまえなんでんなところにいんだよさっさと帰ってこいよさびしいじゃねえか。怒鳴りつけてやりたいことはイングラムの弾数以上にあったはずなのに声はちっとも出てこない。動くのはまぶたくらいだ。仕方ねえから殺す気でにらんでやれば後輩はやっぱり困ったみたいにため息を吐き出す。 「あのですねえ、こんなことしたって無意味なんですよ。事実としておれは死んだんですから。だいたいおれがおれかもわからないのに会話が成立するわけないんです。あんた、頭どころか全身血たりてないんだってわかってます?」 知らねえよつうかおれのことなんざどうでもいいんだおまえが死んだとかばか抜かすんじゃねえ殺すぞ。 「おれは死んでるんですってば。死に際なんて覚えちゃいませんけど今頃動物プランクトンの餌になって海洋食用魚でも育んでますって」 ざけんじゃねえ。だれの許可で藻屑になりやがったこのたこ。動けていたなら飛びかかって気に入りの顔をぼこぼこにしてやったのになんだってこいつはこうものんびりしていやがる。死体みてえに小綺麗で蒼い面で笑ってんじゃねえ。それならぎゃあぎゃあ喚いて暴れて泣いてられたほうが全然ましだ。 ああもう頼むから―― 「だから、せんぱい。いいかげんまじめに生きてくださいよ。せんぱいはひとりじゃないんですからおれいなくたって平気でしょう、それでもいちおうは軍人だったんですから生きていくことは可能ですよ」 だいじょうぶです。にっこり、なんて。なんてざま、ブラックジョークにもほどがあるだろうが相変わらず性格悪ぃな。
ひ
ん
や
り
し
た
死
者
を
夢
に
み
る |