スカルの目は光に弱い。
 専門でないからくわしいことはわからないが、本人によれば局所性白子というらしい。月明かりのような微弱な光でさえ彼の目を焼き、そのためのフルフェイスヘルメット。室内にいるときですらサングラスは手放せないでいる。何度もかきむしったのだろう、白いまぶたには赤黒いかさぶたが幾筋もできあがっていた。
 人類が人類として確立して幾星霜、人は闇をおそれて火を用い、自らのテリトリを切り開いてきた。そして今もなお夜闇はけずられている。昼間よりも夜のほうが明るいなどと皮肉られている日本だ、余計に気が張って心休まるときもないだろう。
 綱吉はベッドに腰かけ、タオルケットを頭からかぶってうつ伏せているスカルの小さな頭をそろりと撫でた。
 カーテンはきちりと閉められているので室内には濃度の高い闇で満たされている。だが一度夜目に慣れてしまえばどうということもなく、事実綱吉は正確に眠る子どもをとらえていた。
 暗闇のなかで見せてもらったスカルの目はとてもきれいな色をしていた。綱吉はその色が好きだったけれどスカルはいらないと泣いた。不良品の自分なんて死ねばいいと泣いて泣いて、泣いた。今日もそうだった。泣き疲れて眠るスカルを撫でる手は甲にみみず腫れができて血がにじんでいる。
 昼間だと、理不尽にもスカルに暴力をはたらくリボーンやコロネロもこんな夜ばかりはおとなしい。彼らもまた末の同胞を案じているのだ。
 最終色である紫を抱いて生まれたスカルはどのアルコバレーノよりも欠陥が多かった。
 赤のアルコバレーノができて死んで最後に紫が果てるまで三十年のあいだがある。アルコバレーノの次代は全員が死ぬまで欠番のままだ。しかし先代の紫が死に、スカルが生まれるまでにあったブランクは一昔もなかった。マフィア界の早期安定を願った管理者がサイクルを狂わせ、充分な休息が得られなかったがためにスカルは欠陥を持って生み落とされた。
 代償はゆるやかな死。
 最後に生まれてきたスカルを最初に見送るのだと、アルコバレーノは知っていた。
 欠けた虹がまたそろうのははるか未来のこと。そのときの彼らは今の彼らではなくて、十年後の綱吉もまたそこにはいない。





ワインの目にさよなら
(このこのめはぶどういろ。ぶどうがくさってできたいろ)