ごつごつした大きな手に体温はもうない(死にかけているのだから当然)。
 はじめて会ったときから個としてあつかってくれた人を(それは別の個だと知っていたから)、
 おれはこの手で殺しました(じゃなと世界が滅んでしまう)。
 上手にできると褒めてくれて(懐かせるためにだけど)、
 頭を撫でてくれて(使い捨てるためだけに六年間も)、
 だいすきだった(認めてすらもらえていなかった)。
 この人のようになりたいと思った(生きているすべてのもの以下だと思われていたのに)。
「師匠、」
 できそこなった道具で、
 不出来な弟子で、
 思いあがった愚かもので、
「ごめんなさい」
 それからさようなら。
 おれはかえります。






(ありがとうございました)