魚を模した鋳型に焼く前のパンケーキと同じものだというどろどろしたものが流しこまれて、その傍らでぷくぷくと泡を浮かせたそれに黒いかたまりが落とされる。ビーン・ペースト――こちらの言葉ではアンコと言うらしいそれはクリームとはまったく異なる舌触りだ。ざらざらしていて。けれどまずくはなく。言うなれば食べ慣れないというやつだ。くるり、とアンコが乗せられていない魚型のパンケーキがひっくりかえる。そしてまた手もとのレバーをまわして鋳型をもどせばそこにはきれいな焼き色の魚がずらりとならんでいた。
 正直に言えば。魚というものはあまり得意ではないのだけれど。
「はい」
 鉄板に横たわっていたものが突然目の前に出てきて。思いがけないことに一拍遅れてまたたき、それを差し出した主を見あげた。
「ありがとう……」
 手がよごれないように配慮された紙ナプキンをそっともって。直接手に伝わるあたたかさにもう一度おどろく。
「あったかい」
「焼きたてだから」
 食べものに触れる経験はあまりに少ない。それだけでなく記憶自体があいまいなものだけれど。となりにいる人物と知り合ってから得たものはどれも新鮮だ。
 魚のかたちをしたパンケーキのサンドをもったまま独特のスタンドの前に立ったままでいると紙袋にいくつか入れてもらっていたスザクが小さく笑んだ。
「今日は写真撮らないのかい」
「撮る」
 ぴろりん、とケータイのシャッター音。どうせならつくっている工程から撮ればよかったと思いなおしてもう一枚。ブログにアップするのはあとにして、今はあたたかい焼き菓子を楽しむとケータイを閉じる。
 それを待っていたのかスザクが魚をかるくもちあげて首をかしげた。
「アーニャはどこから食べる?」
「どこから?」
「頭からとか、しっぽからとか」
 言いながらスザクは「ちなみにぼくは頭かな」と、ふだんアーサーにかまうのとちがってなんの情け容赦もなく(だってこれは生物のかたちをしているだけのもの)頭に食らいついた。血肉や脳髄の代わりに噛み痕から覗くのはパンケーキにはさまれたビーン・ペースト。ただの焼き菓子。
 手にもったそれを見つめなおす。先ほどの工程を思い出してみるとアンコは頭のほうに多めで、尾のほうはぱっと見てかりかりしている感じだ。たしかにこれではどちらから食べるか好みでわかれるものかもしれないけれど。背中を覆うように包んでいるナプキンを手前と向こうに剥いて。
「おなか」
 がぶ、と噛みついた。





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