ナイト・オブ・ラウンズはたがいに監視しあうことが義務づけられている。また過干渉はあまり好ましいことではなく、目にあまる場合は降格も考えられる。 そうは言うものの、だれの目にあまったらのことなのかはナイト・オブ・スリーの立場にあるジノも知らない。興味もない。 常に共にいるアーニャとて知らないだろう、彼女はまだ幼いし階級もずっと下だ――あの子の場合、劣っているのは個の能力ではなく専用騎の特性による。後方支援型である彼女のナイトメアは戦功をあげにくい。 さて、ナイト・オブ・ラウンズは常時規定数が埋まっているわけではない。いくら能力に秀でた騎士たちであっても戦死することはままある。事実、ブラック・レベリオン以前から欠番はあった。いずれ埋まるだろうとだれも気にしておらず、噂ではジェレミア辺境伯が有力だったようだが――先日ようやく席が埋まった。 枢木スザク卿。 ナンバーズがラウンズ入りするのは前例のないことだ。異例といってもいい。彼の出身であるエリア11は近々矯正エリア指定されるらしく、なにより彼は主殺しの騎士として有名だった。 爵位あるブリタニア人だったとしても皇族を守れなければ厳罰、わるくて死刑。たかだか名誉ブリタニア人でしかない枢木はそれこそ公開死刑に処されてもおかしくはないのだ。 思えば、枢木スザクといえば黒の騎士団首魁ゼロ台頭の契機にもなった人物だ。彼の護送がなければゼロは現れなかったかもしれない。おそらくブリタニア軍は枢木をなんらかのプロパガンダにしたいのだろう。対外的には死亡あつかいの、事実生死不明のゼロに対する餌、あるいは黒の騎士団残党に対する牽制。その甲斐あってかエリア11はあれ以来静かなものだ。 「枢木卿、定刻一四二○に第七ポート着予定、だって……」 「へえ。ランデブーは?」 「知らない。でも、輸送艦は第二皇子所属艦」 「アヴァロンか。それならあのうわさも本当かな」 「うわさ?」 はじめてアーニャの目が手もとの携帯端末から離れた。 眠そうなローズピンクのそれを見返しながらジノは大仰に足を組みかえる。 「古いものだけれどね、枢木卿は八年前のエリア11侵攻戦のとき以来皇族あずかりだという話だ」 「でも、彼、名誉でしょう。そんなことってある?」 「そうなんだ、しかし彼の所属していた特派は第二皇子の管轄だ。さすがに私の権限ではたいしたことは探れなかったが、表面を見ただけでも第二皇子は枢木卿に甘いようだよ」 「ふうん……」 興味はそれまでだったようで、アーニャはふたたび慣れた指さばきで端末のキーを打ちこみはじめる。ジノにはとてもできない芸当に感心していたのははじめだけでは今では病的としか思えない。 彼女と自分との間にあるローテーブルに置かれたカップの細いつるを指に引っかける。淹れたては香り高かった紅茶はすっかり冷えきっており、沈殿した苦みに眉根を寄せながらもそれをあおる。エリア各地にある軍司令部のまずいコーヒーよりかはましだ。 カップを置く仕草は優雅に、長い足を放りのばすようにすらりと立ちあがるとジノはアーニャを見おろしてかるく片手をのばした。もちろんポーズだが。 「行くかい? 第七ポート」 「いってらっしゃい……」 噛みあわない会話に肩をすくめ、ジノはひらりと差しだした手をふった。どうせそのうち顔合わせがあるのだからわざわざ見にいくほどのことでもないのだが。 せっかくだからトリスタンも連れていこう。彼だって新しい仲間が見たいだろうし、それに。 「しっかり覚えなければ誤って墜としてしまうからな」 ゆるやかに笑い、ジノはくちびるを舌で舐めた。 うわさに聞く死神の実力は果たしていかほどか。 |