あんたに会いに来たんだ。
 うすい茶色のリングレットの青年はぼろぼろのからだで精いっぱい笑ってみせた。
 目に見えるところに巻かれた包帯が痛々しく、清潔な白さがよけいに青年の肌の青さを強調しているように思えてひどく不快だった(だっていくら彼が北の生まれとはいえ、あれではまるで死人ではないか!)。
 こちらの視線をいぶかしいものととらえたのか、青年は少し照れたようなこまったような表情になって包帯に覆われたほほを、やはり包帯で隠された指先でかいた。先日までは黒のグローヴに覆われていた細い手が今は白い。たしかにあの手の白さを望んでいたけれど、そのような無粋な白など欲したことはない。あくまでも願ったのは生まれたままの色だ。
「なんかよくわかんないけどさ。おれ、たぶんどころかきっときっちり死んでるんだよなあ。痛かったの微妙に覚えているし。まあ気づいたら病院にいたわけだけど」
 触れていもいないのに温度がわかるというのはどうしたことだろう。かたくななまでに触れられることを苦手としていた彼なのに、今ならたやすく触れてしまえそうだ(現実を知らせるように)。一定の距離を保ったまま彼は近づいてこない。触れもしない。すべてをこちらにゆだねている、他人を優先しているかに見せかけてその実はただ逃げているだけの臆病なやさしさ。彼の美点ともいえるそれは同時に汚点だと思っていた。すべてをだれかにゆだねてしまう、そこには彼の意志がないように思えた。ときおりの主張ですらだれかを気にかけていて。彼のやさしさを好いて甘えていたけれどその分だけ同じように憎々しく思っていたのに。
 白いカッターシャツから覗く肌はとにかく布の白さで。ひどく整った顔すら左側のみしか露出されていない。対を失ったみずうみの色。空のあお、海のあお、大地のあおをすべて混ぜたような複雑な色をした地球色の目は以前から片方しかなかったのに、今やのこったほうも濁りつつある。それはまるで地球そのもののように。
 ふと、青年は自分の手を見てやんわりと笑んだ。
「わかるんだ、自分のことだし。きっともうこのからだは死んでる。……はは、変だよな。死んでるのにこうして動いてあんたに会いに来てるんだから」
 彼は笑う。微笑む。愛しそうに、愛惜しそうに。腕を伸ばせば届く距離。それなのに自分も彼もスタンスを保ったまま対峙している。ふだんならこちらからこわしていた彼のパーソナルエリア。やわらかく堅固な壁だった。わざわざこわしていた壁が今は彼の意志でやわらかい。だからこそ自分ははいれない。はいらない。

「きっと、どうしてもあんたに会いたかったんだなあ」

「私は会うだけでは不満だ」

「……知ってるよ」






心だけではものたりない